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第6話 「南アフリカを北上」
ナミビア共和国へと続く南アフリカの国道N7は、道が完全に舗装されていて走りやすい。しかし、終日向かい風が吹いていて、一日に走れる距離は意外に伸びない。しかも、まるでラクダの背中を走っているかのように、道路が微妙なアップダウンを繰り返す。ケープタウンを離れ完全な一本道を何日も走っていると、N7を行き来しているトラックの運転手たちとも顔見知りになる。もちろん彼らとは喋ったことはないが、彼らはすれ違いざま、警笛を鳴らしながらこちらに向かって、「がんばれよ! 」と言わんばかりにガッツポーズをしてくる。それに応えるべく、こちらも片手でガッツポーズを決めて見せると、大型トラックが通った時の突風と自転車の荷物の重さにバランスを失い、倒れそうになる。僕は心の中でこうつぶやいた。
 
“くそっ!愛想が良いのはありがたいんだけど、その突風は何とかならんのか!”
 
さて、ケープタウンを離れ一週間も北上すると、道のり50km〜100kmに町や村がわずか1つのエリアに入っていく。360度見渡す限りの荒野に地球の大きさを感じ、自然に酔いしれているのも初めの数日だけ。ペダルをこいでもこいでも、全く進んでいる気がしない風景に愛想が尽きてくる。近くに対象物があると進んでいる気がするのだが、対象物が遠くにある山だけなどの場合、僕達が進んでいることを認識する術が無いのである。10km進んでも“山の形が少し変わったかなぁ?”ぐらいにしか感じられないのだ。

こんな風景が続くある日、後ろを走っている岡本誠司に用があり、僕は路上で自転車を止めた。やはり彼も周りの景色を楽しむ気などまるでなく、下を向いて面倒臭そうに自転車をこいでいた。すると彼は、自転車を止めている僕に気づかず、常速でこっちに向かって突っ込んでくるではないか!
 
“わぁ、わぁ、わぁ、馬鹿! 馬鹿! 馬鹿!”
 
衝突寸前で僕の叫び声に気づいた彼が、かろうじてハンドルを操作し、僕をかわす。

「急にこんなとこで止まるなよ!」

“前見とけよ!”

「前見てても何もないやんけ!」

“まあ、その通りやな・・・”

と、まあこんな感じである。南アフリカの都心部には、バックパッカー用の安宿があるのだが、田舎の町にはそういう設備がなく、割と小綺麗なホテルしかない。南アフリカの物価は、日本のそれと大した差はなく、そんなホテルに泊まろうと思うと1泊2000円〜3000円はする。しかし、それらのホテルは、庭にテントを張らせてくれる場合も多く、自前のテントで済ませると1泊400円〜500円でホットシャワーまで付いてくる。また、ホテルが無い所では、ガソリンスタンドの裏手のスペースによくテントを張らせてもらった。先進国となんら変わらない南アフリカのガソリンスタンドには、コンビニやファーストフードを併設している所も多いうえ、トラックの運転手とも仲良くなってこれから向かうべく土地や道路の情報が入手できる。僕は、アフリカの道路情報を入手するために、フランスのタイヤメーカー、ミシェラン社が出版している道路マップを持っていた。アフリカに強いフランスの会社ということもあって、ミシェランの道路マップは僕が知る限りアフリカに関してはNO.1である。そんなミシェランの道路マップをトラック運転手に見せ、アドバイスをもらっていた時、その運転手はこんなことを言った。「この地図では、この町からあの町までは62キロと書かれてあるが、これは間違いだぜ。61キロだ。」

62キロか61キロなんて、どっちでも良いが、とにかくミシェランのマップやトラックの運転手が教えてくれる道路情報は正確で頼りになる。それに比べ、運転手以外のアフリカの人たちが持っている距離感たるやいい加減である。次の村まで50キロあっても、「あと10キロだよ。」と平気で言う人が多い。わからないのなら、“わからない。”と言って欲しい。そうでないと、何も無い荒野の中で日没を迎えることになるからだ。常日頃からウソをつかれて、苛立っていた時に、一度いじわるをしたことがある。“A地点まで70キロ”と書かれた標識の裏で、僕はわざと“A地点まで何キロ?”と尋ねたことがある。案の定、たったの「20キロ。」とちんぷんかんぷんなことを言ったので、“お前こっち来い!この標識見てみろ!70キロと書かれてあるぞ!お前うそつきか!”「勘弁してくれよ。知らなかったんだよ。」

日本人としての感覚しか持ち合わせていなかった僕が、このとき彼らがどうしてこんなことを言うのか知る由も無かった。
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